197X年宇宙の旅

あなたが子どもの頃、好きだった遊びは何ですか?私が好きだったとっておきの遊び、それは〈秘密の乗り物ゴッコ〉とでも言ったらいいのでしょうか、私の考え出したひとり遊びでした。

この遊びに必要な道具。それは段ボール箱とマジックだけです。段ボール箱は出来るだけ大きなものを用意してください。何故なら、その中に自分が入って遊ぶための箱だからです。大きな箱が用意できない場合には、小さな段ボール箱の隅を開いて机の上に置き、自分の前にグルリと衝立のように立たせて使っても良いでしょう。いずれにせよ自分の目の前に、段ボールが有ればよいのです。

遊び方はシンプルです。まず、段ボール箱の中にしゃがみます。そして用意したマジックで自分の周囲にコクピットを描いていくのです。前面にはモニターやらスピードメーターやら燃料計やら操縦桿、左右に大小様々のボタンやスイッチ、何を測るのかわからないメーターなど、兎に角隙間なく段ボール箱の内側、自分の周りに描き込んでいきます。精密機器に囲まれた、最高にカッコいいコクピットを作り上げるのです。

あとは簡単、その中に小さくじっとしゃがみ込んだら準備完了。ああ、ここが一番ワクワクする瞬間です。目の前に描いた丸いボタンをポチッと押す。するとウインウインウインウインと機械音が徐々に大きく鳴り響き機械が作動し始めます。メーターの数値がグングン上がっていきます。すかさずモニターをチェック。操縦桿をタイミングよく引いたら、左のスイッチをパチパチパチと三つ倒す。スピードメーターの針がグラグラと揺れ始め、ゴゴゴゴゴゴと〈秘密の乗り物〉は動き始めます。遥か遠く未知の星へと、長い長い旅の始まりです。

この〈秘密の乗り物ゴッコ〉、最上位の遊び方を突き詰めるならば、さらにダイヤブロックを用意しましょう。
ダイヤブロックというのはカラフルで小さいレゴのようなブロックのオモチャのことです。私は幼少期これが大好きで、近くの煎餅屋さんの銀色の缶にガラガラジャラジャラと入っているこれを取り出しては、毎日のように自分なりの秘密基地やロケットやトラックなどを作っていました。

このダイヤブロックを〈秘密の乗り物〉の中へ持ち込み、しゃがみ込んだ足元でコツコツ組み立てていくのです。探査機や燃料タンク、食料運搬用トラックや敵?に遭遇した時のロケットミサイルなど、危険を伴う未知の星への長い旅に必要なものをせっせと組み立てていきます。ああああ楽しいよおおおお。この時の私には、ブラウン管に映る大好きなバカボンのアニメも食べかけのキャラメルコーンも眼中にありません。もう私は宇宙への長い長い旅に出発してしまったのです。再びこの6畳間に帰ってくる頃には、私はいくつもの星を旅し数々の困難を乗り越えた逞しい大人の冒険家になっていることでしょう。さらば地球。さらばキャラメルコーン。さらば大好きなテレビ番組たちよ。

段ボール箱の中にしゃがみ込みブツブツブツと自然に口から漏れ出てくるそれが、遥かなる旅の物語でした。〈秘密の乗り物ゴッコ〉をするとき、私はいつも必ず一人でしたが、ちっともつまらなくも寂しくもありませんでした。一人だからこそ自由自在。自分の想像力の限界の限界まで、何時間でも最高に楽しく無我夢中で遊べたのでした。

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そして現在。大人になった私は一人でいることがどんどんヘタクソになって自分の機嫌さえも取りきれなくなって、自分以外の人や物や事が無いと手も足も出ない人間になってしまった気がします。子どもの私よ、ゴメンな。

もう一度、マジックを持ってみるか。


書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/