神経筋疾患対象の呼吸リハビリ「LICトレーナー」
呼吸のリハビリを目的に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者である私は現在入院しています。以前から希望していた「LICトレーナー」による呼吸の練習を行うためです。
ALS患者は、健康な肺を持っている者であっても、その肺を動かすための筋肉など呼吸や咳をするのに必要な呼吸筋がだんだんと痩せ、力が低下していくことで徐々に呼吸がしづらくなります。自発呼吸ができなくなると、患者は、呼吸だけでなく発話、嚥下なども含め全身が思うように動かない状態のまま、気管支を切開し人工呼吸器を装着して24時間の介護を受けながら生きるか、それとも気管切開を施さず人工呼吸器を着けないで生きることを諦めてしまうか、自分で選択しなければならなくなります。一度装着した人工呼吸器は、はずすことができません。徐々に全身が動かなくなり自発呼吸も出来なくなってゆく恐怖と戦い続けねばならない進行性の不治の病であること、自分で自分の生死を決定しなければならないことなど、ALSは極めて過酷な病気であるといえます。
私自身、発症前と比較して肺活量は格段に落ちました。登山を趣味にして多少は自信のあったその数値でしたが、今では同世代女性の平均値をはるかに下回ります。このまま息苦しさ、呼吸のしづらさが増しいていくのを少しでも食い止めたい。予後をよくするために取りうる手段はすべて試みたい。私は友人のアドバイスを受け、信頼する専門職の知人に相談し、LICトレーナーによる呼吸練習についての情報を得ることが出来ました。
- 筋萎縮側索硬化症(ALS)
- 筋ジストロフィー
- ミオパチー
- 高位脊髄損傷
- 重症筋無力症
- ポンぺ病
- 脊髄性萎縮症(SMA)
- ギランバレー症候群
- ポリオ後症候群
- ニューロパチー
- パーキンソン病及び関連疾患
- 両側横隔膜神経麻痺
喉の筋力低下があっても、気管切開されていても、深呼吸が出来ない患者であっても、LICトレーナーを用いた呼吸練習を実施することは可能です。ただし、気胸や肺気腫等、肺に問題がある患者への使用は出来ません。また、施術者によって外部から肺に空気が送り込まれるため、患者自身が圧迫感や不快感を覚えたり、苦手に感じるようであれば導入を見合わせるという判断も必要です(LICを用いた呼吸練習は、必ず主治医と相談し、理学療法士等による適切な指導の下で実施してください)
リハビリの様子を、患者側から説明します(※注:あくまで私自身のケースを元にしています)
まず、ベッドなどに横になります(私の場合です)。患者は大きく息を吸い、その息を吐き出さないうちに、施術者は患者の鼻と口にLICトレーナーに繋がるマスクを押し当てます。[患者-マスク-LICトレーナー本体-バックバルブマスク(アンビュ・バッグ)]という接続構成です。「はい、吸って」という声掛けとともに施術者はアンビュを押し、LICトレーナーを経由して、めいっぱい息を吸い込んだ患者の肺にさらに空気を入れます。LICトレーナーには空気を一方向にのみ送り出すための弁がついているので、自分で息止めが出来ない患者の肺にも施術者は追加して空気を送り込むことが出来ます。自力で吸い込める呼気の量を越えて空気が送り込まれることで、肺が柔らかく伸び、ストレッチされます。これを1セットあたり何回繰り返すか、どの程度の圧で空気を送り込むか等は患者の状態により異なります。繰り返しますが、LIC練習は必ず主治医と相談し、理学療法士等による適切な指導の下で実施してください。
「はい、吸って」という声掛けとともにアンビュをプッシュする、という動作を施術者が何回程度繰り返すかの目安はありますが、基本的には患者に任されています。患者自身が呼気を逃すためのチューブを手指で押さえ、それを患者のタイミングでリリースしたり、また、手指が動かせない患者の場合は施術者とのアイコンタクトなど予め約束しておいた方法で合図を送り開放してもらうことが出来ます。LICトレーナーには安全弁も付いているので、構造上あらかじめ設定した圧以上で空気が送り込まれることはありません。
自宅でも出来るの?と、思われるかもしれません。結論から言えば、LICトレーナーを使用した呼吸リハビリは自宅でも可能です。毎日行う手足のストレッチが効果的であるように、LICを用いた肺のストレッチも毎日続けた方が効果的であるという統計結果が得られているそうです。また、この呼吸練習は施術者に何らかの資格を求めるものではありません。主治医や理学療法士等による適切な指導の下、そのやり方さえ正しく習得すれば、家族でもLICによるリハビリを日常的に実施することができます。一点、導入に躊躇するかもしれない点があるとすれば、LICトレーナーの購入には保険が適用されないということです。本体やマスク等、必要な最低限度のものを自分で取り揃える場合、その価格は約5万円ほどになります。一度購入してしまえば、日々のメンテナンスさえ怠らなければ、基本的にはほぼ追加で費用のかかるものではありません。
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追記。
今回の入院で、OT、STの先生方からも、生活全般の見直しにつながる重要なご指摘をいくつもいただきました。このタイミングでのご指摘・ご指導のないままに、これまでの生活スタイルを続けていたらと想像するとゾッとします。帰宅してからも意識的な生活が継続できるよう、いただいたアドバイスを日々の暮らしの中に着実に取り入れてまいりたいと思います。先生方、この度は誠に有難うございました。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
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