ニュートリノの旅
1秒間に数百兆個ものニュートリノが、人間の身体を通過しているらしい。
へえええええ
宇宙を構成する物質はすべて素粒子で出来ているんだって。
素粒子の一種であるニュートリノはごく小さい粒子であるうえに、ほとんどどんな物質にも反応することがない。
だから、人間の身体どころか地球をも貫通してしまうのだそうだ。
へえええええ
勿論私の身体だって、ニュートリノは突き抜ける。私が、もうすぐ死んでしまう病気なんてことは一切お構いなしだ。
もう何年間も痺れ動かないこの足も、幼児ほどの力しか残らないこの右手も、ニュートリノは容赦なんてしない。
シャシャシャシャシャッと通り抜け、ブンブンブンブンと通り過ぎる。
しかも1秒間に数百兆個、だぜ?
ひゃっっっっっほうううううううううう
想像するだけで愉快だ。痛快だ。爽快だ。
私の呼吸機能が停止しても、ニュートリノは私を通り抜ける。
私の心機能がその役目を終えても、ニュートリノは私を通り過ぎる。
そして私は、宇宙の塵となるんだ。
そうだ。私はニュートリノと手を組もう。
奴らなら私を、光よりも速く宇宙を駆ける旅へと、連れて行ってくれるはずだ。
地球を、あっという間に突き抜ける。
そして遥か遠くへ。宇宙の、もっと遠くへ。
地球には、そうだな。100億年くらいしたらまた戻ってこようか。
その頃、地球はまだあるのかな?
いや、やっぱりやめよう。地球は、あんまり好きじゃない。
地球を、あっという間に突き抜ける。
そして遥か遠くへ。宇宙の、もっと遠くへ。
すべてを通り抜け、突き抜けて、光の速さで宇宙を駆ける。
フンフンフンヒャヒャヒャッて、歓びの鼻歌まじりに、さ。
遥か遠くへ。
想像するだけでもう、気絶しそうなくらい、幸せだよ!!
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