夢
死んでしまう病気になったのだから、残りの時間は好きなことをしていたい。
私の生まれていなかった頃に、この国に生きた人たちのこと。いのちや宇宙のこと。この世界のありようについて。そんなことをずっとずっと考えながらお日様の下で静かに暮らしてゆきたい。私の見たことのない朝日を眺め、私の知らない言葉でおやすみを言う人びとの暮らしを、ほんの少しでいいから覗いてみたい。
古い紙の匂いのする小さな活字の本。インコがシードを齧る乾いた音が耳に心地よい。温かいほうじ茶の香り。赤いタータンチェックの膝掛けを直して。
首の軽い痛みで目が覚めた。部屋の中に差し込む日が低い。車椅子のヘッドレストに頭の向きを変えてもう一度目を瞑る。
あと少しだけ、空を飛ぶのだ。
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