宇宙インコ

 先週、インコが卵を産んだ。メス一羽。無精卵だ。
外出から戻ると、ケージにインコの姿が見えない。驚いて思わず声を掛けると、ケージの床にじっと身を伏せているインコと、すぐそばに白く小さな卵が一つ、あった。思わず驚きの声が出る。
くちばしでやさしく卵を突き、低くした腹の下に抱き込もうとするインコ。イマイチ位置が定まらないらしく、いつまでもそっと卵を転がし続けている。ああ、きみはひとりで産んだんだね。不安だったかな。痛かったかな。とりあえず無事でいてくれてよかった。本当によかった。

産卵はインコの体に大きな負荷がかかる。体力を著しく消耗するし、栄養の問題や“卵詰まり”のリスクもある。頻回な産卵はインコの寿命を短くしてしまうので、インターネット上には愛鳥家らによる「無精卵を産ませないためのNG集」があちこちに書き込まれている。目を通してみると不覚にも思い当たることばかりだ。産卵自体は自然なこととはいえ、飼い主本意の飼い方をしてしまいインコの体に余計な負担をかけさせてしまった。大いに反省せねばならない。

素知らぬふりをしながら遠目の横目でインコと卵の観察を続ける。目を閉じ、向こうを向いたまま床にお腹をつけて抱卵するインコ。命懸けで産んだ卵が、ふさふさの腹の下に覗き見える。誰に教わるでもなく、じっと目をつむり卵を温めるインコの姿は美しく神々しく、われわれ一つひとつの命が宇宙に浮かぶ星のカケラであることを思い出させる。数百年に一度必ず現れる流星群のように、インコは卵を産み、それを温める。小さく愛らしい命の内に宿る宇宙の摂理。一方で、温めても孵化することはない卵を黙々と抱く姿は、見ている者を切ない気持ちにもさせる。勿論インコはそんな私の安っぽい感傷などどこ吹く風で、太古の昔から連綿と続く果てしなく大きな力に静かに身を委ねる。宇宙の、銀河系の、太陽系の、地球の、日本の、マンションの部屋の隅にある一辺40センチほどのケージの中の、小さな小さな命の営み。しかしそれは間違いなく、宇宙の片隅で起きている宇宙的出来事だ。

さて、そろそろ私は読書の時間としよう。宇宙的インコに相応しい、宇宙的飼い主になるために。

書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/