100円ショップ

帽子を編んだ残り糸に毛糸を買い足して、ネックウォーマーを作ってみた。
かぎ編み棒にはグリップを太くする自助具(スプーンやペンなどを刺して使うもの)を取り付けてある。そのままでは私の手に細過ぎて、とても握れないから。

次に編むものは決めていないけれど、毛糸はもう買ってある。100円ショップって何でも置いているんだなと感心する。
そうそうこの前、近所の100円ショップの入り口のところで某テレビ局がアンケートをしていた。おそらく番組制作会社のスタッフであろう3、4人ほどの若者が「この商品を使ったことはありませんか?」という写真入りのボードを掲げて店を出てくるお客さん一人ひとりに声をかけている。
へえ、こんな所でねぇ、なんてヘルパーさんと話しながら店に入って無事毛糸を購入。車椅子の背に掛けてあるトートバッグに買った毛糸を仕舞い、店の自動ドアを出ると、手持ち無沙汰そうな若いスタッフたちが店から出てくる客を待ち構えていた。
…めんどくさそうだけど、話くらい聞いてあげようか。向こうもお仕事なんだし。
そんなことを何の気無しに考えていたら、私の背後で自動ドアを出てきたお客さんが、スタッフの一人から早速声を掛けられている。その後ろから出てきた三人組の女子たちも、女性のスタッフに捕まっていた。
…あれ?私だけ、声を掛けられない。私だって彼女らと同じように、店を出てきたところなのに。
ああ、まただ。私の頭の上に例のアイツが顔を出す。アイツはその冷たく重たい身をつむじの辺りにデロリと横たえ暫くそこから離れない。
社会人として生活人として人間として一人前ではない人たち。不完全で不自由で不具合のある、アンタッチャブルな異形の存在。よく分からないものにウッカリ触れて、困ったり批判されたりするのは割に合わない。見なかったことにしよう。そっと距離を置こう(本音は匿名でそっと呟けばいい)。そう、これは排除ではない。われわれはいい人なのだし、何より彼らに気付かなかったのだから。

生きている時間のあちこちで感じる、透明な疎外感。どうやらいつだって私の気のせいで考え過ぎで思い過ごしらしいが、人一人の感覚を無かったことにしてまで維持したい“世界”って何なのだろう。

アクリル100%の毛糸はとってもいイイ感じの風合いで、不揃いな編み目もそれはそれで味わいがあると気に入っている。
モコモコの毛糸にくるまれた車椅子女は、今日も東京の灰色の空の下を、行く。



書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/