ライヒスビュルガー

数日前に観たテレビのニュース。ドイツで、国家転覆、新国家建設を図った極右関係者や現職裁判官、元軍人や警察官ら25名が捕まった。彼らは連邦議会議事堂襲撃を企て、暴力により政権を奪うクーデターを計画していたという。
彼らの中にはライヒスビュルガーと呼ばれる、戦後のドイツ国家、ドイツ連邦共和国の存在を否定する極右勢力がいた。ライヒスビュルガーはドイツ国内に2万人以上いると言われ、人種差別的な陰謀論を掲げて「ドイツ帝国」こそが自分たちの祖国だなどと主張する複数の少数派グループで構成されている。税金の徴収にも応じず、独自のパスポートや免許証、通貨まで発行しているグループもある。これまで“変わり者”の集団と見做されていたライヒスビュルガーだが、近年その数は増加の一途を辿りますます過激化している。
今回の逮捕劇の主犯格は陰謀論者であり反ユダヤ主義者の高齢男性で、貴族の末裔だという。事件は未然に防がれたが、物価高騰やパンデミック、移民の問題などによりドイツ社会が不安定化する中で極右、ポピュリスト政党が政府批判の受け皿になり支持率を伸ばしている。また、SNS等を通じてドイツにも浸透しているアメリカのQアノンの陰謀論やトランプ前大統領支持者らの議会襲撃、新型コロナのパンデミックやウクライナにおける戦争なども、その支持拡大に大きな影響を与えているという。
陰謀論、否定論、極右思想、修正主義。歴史家でも思想家でもない日本在住の一市民である私でさえも、昨今それらが火のような勢いで巷に広まりいつの間にか一般的認識として定着しつつあるのを強く感じている。
私は仕事で関わった初対面の人に突然陰謀論めいた議論を挑まれて驚いた経験がある。「マスコミはフェイクニュースばかりを伝え真実を全く報道しない。真実を知るのはほんの一握りの“われわれ”だけなのだ」という典型的な導入で始まるそれを長々と聞かされた訳なのだが、私が一向に賛同しないと見るや「無知で不勉強なお花畑人間」と“敵枠”に入れられ距離をとられてしまった。コチラ側とアチラ側とを明確に分断するのも手法らしい。
お決まりの反ワクチンの主張も、いつの間にか無かったことにされるアレコレの歴史も、大概は見ず知らずの誰かが「YouTubeでやっていた」り、親切な誰かさんから「Twitterで回ってきた」りする“真実”であるようだ。研究者や専門家らによってコツコツと積み上げられてきた知の公共財は、たった数分間の動画で語られる魅力的な物語にいとも呆気なく組み伏せられてしまう。複雑で地味で満たされない現実よりも、自分こそが真実を知る数少ない特別な人物なのだと感じられるワクワクするようなわかりやすい嘘を信じたいのかも知れない。言語道断の差別的発言を繰り返す政治家が支持され政府の要職を務めるご時世だ。私たちの足元の差程深くもないところで、とんでもない地崩れが起きようとしている。私は抗う。

書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/