東京タワー

インカメラで、空を撮る。
孫たちに見せたいの。今は便利になったねぇ。
そんなことを言うと、なんだかすっかりおばあさんみたいでしょう?
二人も孫がいたら、もう立派におばあさんだもの。
あの子らは、22世紀まで生きるんだ。

東京タワーの足下。夕風に鯉のぼりが美しい。
65年前に建てられた、戦後の東京を象徴する建造物を仰ぎ見る、背の高い若者たち。薄暮に白い歯がのぞく。
どこで壊れたの?Ohフレンズ。キッチンカーから流れる懐かしい歌詞に混じって、知らない言葉の歓声が聞こえてくる。
ここに爆弾が落ちてくるかも、なんて、誰ひとり、小指の先ほども想像しないよね。
場違いなことを考える、おばあさんが一人。

「軍艦、軍艦、ハワイ。ハワイ、ハワイ、沈没!」
そういえば小学生の頃、そんな掛け声でジャンケンをしてたっけ。あの土曜日の夜、最初はグー、という世紀の発明が披露されるまでは。
パンデミックで、政情の不安定で、あまりにも呆気なく、私たちは互いの国を行き来できなくなる。
平和はあまりにも尊く脆く儚いのに、私たちはそのことを簡単に忘れてしまう。
近未来。このまま地球が壊れ続けてしまった果てに、私の故郷にも風が吹かなくなるときが来るかもしれない。どこかの谷の話みたいにさ。

肩車をされた女の子が、父親らしき男性の頭にしがみ付きながら、鯉のぼりに向かって手を伸ばす。
22世紀の空に、鯉たちよ泳いでいてくれ。


書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/