祝福の時
インコと遊ぶ時間に意味がないなどと、誰が言った。
手に乗せ、名を呼び、鼻先をつけ合って、くくく、ぎゅるぎゅると語り合う。
そのひと時に意味がないなどと、一体誰が言った。
バラの香をかぐ時間に意味がないなどと、誰が言った。
日を浴びる車椅子の散歩道に、顔を擡げる朱色のバラが鼻腔から目の奥にと香り、染む。
その束の間に意味がないなどと、一体誰が言った。
抱えられ、介護される時間に意味がないなどと、誰が言った。
掌の、指の温度を腋窩の薄い皮膚に感じながら、白い歯の人の、その力の確かさに身を委ねる。
その刹那に意味がないなどと、一体誰が言った。
私の生きる時間に意味がないなどと、誰が言った。
瘡蓋の硬い腕に300回目の点滴を落とし、テーピングの指をキーボードの上に置く。
その命に価値がないなどと、一体誰が言った。
苦しんでいると
不安なのだと
絶望していると
なんでお前みたいなやつが生きているのかと
いいかげんそろそろ死にたくなってきただろうと
死にたいなら楽にさせてやろうなどと
一体誰が
私は生き続ける。そして私は、宇宙へ行く。
見たことのない景色を見に、あんたらのついてこられない遥か遠く、宇宙に。ね。
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