読書メモ⑥

逃げる。逃げる。逃げる。吉村昭は“逃げる人”を書く小説家だ。私はこれまで作者の意のままに、警察に追われ、刑務官に追われ、朝廷軍に追われ、幕府に追われ、占領軍に追われ、憲兵に追われ、羆に追われ、日本中を逃げに逃げまくってきた。
『長英逃亡』の主人公は小伝馬町の牢に火をつけ破獄した当代一の蘭学者・高野長英である。幕府を批判し蛮社の獄で囚われた長英。江戸末期の大天才は、その溢れる才と国防への強く真摯な思い故に大罪人となり日本中を逃げ惑う大逃亡者となる。
桜田門外ノ変の首謀者として、戊辰戦争の朝敵として、太平洋戦争の戦犯として、歴史のある瞬間に突如追われる者へと運命の淵を転がり落ちていった男たち。彼らの犯した罪とは、守りたかった大義とは何だったのか。そしてそんな彼らを匿い、求め、逃し続けた人間たちの少なくなかったことに唸る。大転換する時代と、それぞれの人の正義を思う。
ああ私はどう生きたらよいのだろうか。



【期間:2021/03/16~2021/03/31】
①『白い人・黄色い人』遠藤周作(新潮文庫・1960)
②『長英逃亡(愛蔵版)』吉村昭(毎日新聞社・1997)
③『帰艦セズ』吉村昭(文春文庫・1991)
④『聯合艦隊司令長官 山本五十六』半藤一利(文春文庫・2014)
⑤『琉球の風(一) 怒涛の巻』陳舜臣(講談社文庫・1995)
⑥『琉球の風(二) 疾風の巻』陳舜臣(講談社文庫・1995)
⑦『琉球の風(三) 雷雨の巻』陳舜臣(講談社文庫・1995)
⑧『実録 アヘン戦争』陳舜臣(中公新書・1971)
⑨『指揮官たちの特攻 幸福は花びらのごとく』城山三郎(新潮文庫・2004)


③ーいずれも優れた作品ばかり7篇を収めた短篇集。
⑤⑥⑦ー中国・明王朝と薩摩藩に挟まれながらしたたかにしなやかに生きた琉球王国の人びと。南海の民の歴史と文化の一端に触れた現代の大和人である私は、広く高く遥か海の遠くへと琉球の風に運ばれていく。


書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

書くこと。学び、考えること。難病ALSに罹患し、世界や自分のあり様を疑う戦慄の時間。生きた証として書いていきます。 satohiromi.amebaownd.com/