1989
昭和の終わった年
原宿、竹下通りの雑居ビルの二階
18の私は、両耳にピアスの穴を開けました
「あなたは耳たぶが小さくて薄いから
後ろの留め具が見えないように
斜めに開けてあげましょう」
何のことやらよくわからない18の私は
手鏡を持たされたまま
自分の耳たぶにポツンと記された
緑色の水性マジックのペンの跡を
ぼんやり眺めていました
小さい頃
食料品店の娘だった私が 店を手伝わされ
納豆やら、菓子パンやら、せんべいの袋などに
ガチャガチャと小さな白い値札をつけていた
確か
あんなような器具だったと思います
(バチン)
(バチン)
痛いよりも、怖いよりも
耳元であまりに大きな音が鳴るので
私は驚きました
当たり前か
小さなチューブ入りの軟膏
「傷口が落ち着くまで
しばらく患部につけていてください」
私は大人しく塗り方を教わって
そのビルを後にしました
たった今
私にあいた傷口は
一人前を気取るにはあまりにも未熟すぎて
きっと
丁寧に塗られた透明な軟膏で
キラキラと光っていたでしょう
たいして価値のない
何をやってもうまくいかないはずの自分など
めためたに
傷ついてしまえばいいと思っていた18
生きる価値のない自分なのだから
自分を傷つけることで
やっと
認識と肉体が均衡を保てるのだということを
私はずっとあとになって理解しました
いえ
余計なことでしたね
原宿、竹下通り
昭和が終わった年のことです
0コメント